日本感情心理学会 第27回大会

大会における主な企画・行事

大会メインテーマ 「感情をメタな視点で考える」

特別講演

特別講演1
「感情」って科学の概念なんだろうか

6月29日(土) 15:45~17:15 3号館331教室
司会者:
山川 香織 (東海学園大学心理学部)
講師:
戸田山 和久(名古屋大学情報学研究科)

 心理学ってどうしてもフォーク・サイコロジー由来の概念を捨てきれないよね。「感情」ってのもその一つだ。物理学なんかにはそういうことはあまり見られない。「いきおい」というのは日常的な概念だけど、物理学では出る幕がない。「いきおい」とひとくくりにされていたものは、速度、運動量、運動エネルギー、角速度、角運動量、慣性モーメント…といった具合にバラバラにされて、それぞれ数学的に定義される。でも、心理学では雑多なもののレッテルに過ぎない「感情」概念を大々的に使っているように見える。感情は果たして科学的概念なんだろうか、いやそもそも「科学的」概念ってなんだ。といったことを反省してみます。

特別講演2
「おせっかいなサル」の行動進化学

6月30日(日)13:30~15:00 3号館331教室
司会者:
河野 和明(東海学園大学心理学部)
講師:
小田 亮(名古屋工業大学大学院工学研究科)

 人間は生物の一種であり、進化の結果として現在のような特徴をもっている。これは単なる思想や仮説ではなく科学的事実である。ゆえに、人間を対象とする科学は、すべからくこの事実に立脚していなければならない。では私たち人間はどういう生物なのかというと、霊長類の一種である。比較行動学の対象として人間をみたとき興味深い特徴のひとつは、たとえ頼まれなくてもわざわざ他人を助けるという、非常におせっかいなところだ。他の霊長類にはこんな行動はみられない。なぜ、人間はこんなにおせっかいなのだろうか? また、私たちが他人を助けようとするときに働く感情や認知には、どのような適応的意義や進化的な背景があるのだろうか? 本講演では、まず人間行動を進化の観点から研究しようとする人間行動進化学について概説し、次に人間の利他性の基盤となる認知特性について適応的な観点から何が考えられるのか、またそれをどう実証していくのかについて、具体的な研究例を紹介する。

シンポジウム

感情の功罪を考える―基礎・社会・臨床から―

6月29日(土)13:30~15:30  3号館331教室
企画:
高田 琢弘・山川 香織(東海学園大学心理学部)
司会者:
高田 琢弘・山川 香織(東海学園大学心理学部)
話題提供者:
木村 健太(産業技術総合研究所自動車ヒューマンファクター研究センター)
関谷 大輝(東京成徳大学応用心理学部)
松本 昇(名古屋大学情報学研究科)
指定討論者:
大平 英樹(名古屋大学情報学研究科)

 感情とは進化過程において獲得されたシステムであり,環境の変化に対し生存を有利にするといった適応的な機能があると考えられている。さまざまな環境の変化によって引き起こされた感情が,学習,認知,社会的行動といった種々の側面を調整するという知見からも明らかであろう。しかし実際は,感情が望ましい状態や行動を導くこともあれば,そうでない方向に作用することも報告されている。このような感情機能の功罪に関しては,感情研究領域の広さや定義の難しさから,統一的な見解には至っていない。そこで本シンポジウムでは,基礎・社会・臨床のフィールドでご活躍の先生方から,感情の影響についてご紹介いただいた上で,それぞれの領域を超えた視座から感情機能を捉え直すことを目指し議論する。

プレカンファレンス

プレカンファレンス1
顔・表情が伝えるもの

6月28日(金)15:00~18:00 4号館421教室
企画者:
難波修史(広島大学)
話題提供者:
難波 修史(広島大学)
中村 航洋(早稲田大学)
熊野 史朗(NTT)
指定討論者:
小森 政嗣(大阪電気通信大学)
梅村 浩之(産業技術総合研究所)

 顔・表情は我々の日常生活において様々な情報を伝達する媒体となっている。本企画では情動や印象といった様々な情報が,表情を通してどのように表出され処理されていくのか,についての知見を3名の研究者が提供する。 難波は情動体験から生じる表情 (自然表情) と表出意図から生じる表情 (意図表情) に対する人間と機械による情動認識パフォーマンスを通して,表情の表出と認知の二側面について紹介する。中村氏は魅力や信頼などの多様な顔印象を計算モデリングの手法により定量化し,自在に印象を操作する新たな試みについて紹介する。さらに熊野氏はCG顔に対する情動認識課題や二者対話時の情動一致判断課題を対象として,主観評定値のみから認知対象と認知者個人それぞれの特性をモデル化する感情計算論 (Affective Computing) の有用性について紹介する。そのうえで,顔・表情形態解析の専門家でもある小森氏および産総研コミュニケーション研究チームのリーダーである梅村氏に指定討論をいただき,自然・意図表情,顔魅力,感情計算論についての研究が感情心理学においてどのように貢献しうるかについて,本企画にて会場と議論していきたい。

プレカンファレンス2
今,改めて問う「感情とは何か」(3)―研究方法からみる「感情とは何か」―

6月28日(金)15:00~18:00 4号館424教室
企画者:
武藤 世良(お茶の水女子大学)
白井 真理子(同志社大学)
話題提供者:
山本 晶友(上智大学)
森 数馬(NICT, CiNet)
浦野 由平(東京大学)

 企画者は過去2年度にわたり,「感情とは何か」という問いについて改めて考えてきた。昨年度は参加者とともに新たな感情の定義を創発しようと試みた。その結果,全体で共有できる単一の定義を創発することの難しさに直面しつつも,感情の構成要素を緻密に検討しようとする方向性に関しては,一定程度の了解が得られたように思われた。
 それでは感情(の構成要素)はどのように研究すればよいのだろうか。心理学が実証性を重視する学問である以上,研究者は自身が考える「感情」を検証するためにより妥当な方法を模索し続ける必要がある。近年の科学技術の発展に伴い,心理学の研究方法の進展には目を見張るものがある。一方で,こうした手法は専門化・複雑化の一途を辿り,新しい方法に挑戦することをためらう研究者も少なくないのではないだろうか。
 そこで本年度は,様々な研究方法を活用することで新たに拓ける感情研究の未来を見据え,若手研究者3名から話題提供をいただく。山本氏には感謝感情を中心に感情喚起方法,森氏には自律神経系から中枢神経系まで多岐にわたる生理学的測定法,浦野氏には感情制御研究を中心に経験サンプリング法等の質問紙調査法について,各方法の可能性や限界,相補性についてお話しいただく。例年と同様に,当日は参加者ご自身が指定討論者となり,「気軽に生産的に」議論できる場として,皆で議論する時間を楽しんでいただければ幸いである。